guitar Kazuhiko Tsumura  
   
  生まれは大阪。二十一歳の時にプロデビュー。以来、アケタの店(荻窪)を中心に三十年ほどジャズ一筋であった。
私は困っているのだ。覚張が時々音痴になる。聞くところによると音程などどうでもいいらしい。勝手に声が出りゃ歌なのだと、無茶なことを言う。ところが田村は、この覚張の音程が狂った瞬間に、全然これに合わせないで全く違った音程に変えていく。私はどうすればいいのだ。しかし、私は驚かない。その中にいるのが楽しいのだ。迷ったり悩んだりすることが、こんなにも楽しいのだ。やがて二人の狂気に触れない中道の、人間らしい道が見いだされ、私は狂わず演奏を続ける。中道の精神こそ揺るぎないものなのだ。
恐竜など知るか。巫女の呪文など中道の強靱さに比べれば、大したものではない。みな中道に従うのだ。実のところ、風狂で演奏する前日頃のライブでやれないことやってやろうと画策している。だが、始まると常に自分の持っている全てを出してしまう。そして何をやったのか何も覚えていないのだ。三人ともそうらしい。風狂の目指す音楽は消滅する音楽らしい。 そう、一音一音が消えていくのだ。だから三人とも控え室で反省などしない。計画も立てない。今晩何を食うかしか話をしない。時々、風狂の録音を聞かされる時がある。これはどこの国の音楽で、誰がやっているのか、心底戸惑うばかりである。