vocal  Sachiko Kakuhari  
   
  大阪生まれ。三歳から歌い続けている。毎日歌っている。稽古は河原。歌っていると、鳥が寄ってくる。鳥は素直だ。またある時、気づいてみると暴走族に囲まれていた。族のリーダーが言う。「何をやっているのか、呪文か?」私は「ジャズだ」と答えると、「ジャズという呪文か?」と真顔で問うのである。面倒だから「そうだ」と答え、スキャットをし始めたら、「こえー」と言って逃げていった。族は素直ではないから恐かったのだろう。津村と田村にこの話をしたら、族は鳥より素直なんだなあ、と感心していた。私は心を曲に乗せて歌うことを好まない。演技に過ぎないからだ。この演技は詞の意味に振り回される軟弱な精神から生まれる。しかし、詞は音であり、声であったのだ。詞の中にリズムもテンポもメロディーもあるのだ。だから歌い手は作曲者の音楽と、作詞者の音楽の二つを統合するものなのだ。従ってこの考えに基づけば、歌い手は分裂・統合を繰り返さねばならないのだ。まともの心根ではできぬことなのだ。そして、この分裂・統合は即興でなくてはならない。結成から九年。一度も褒められたことなどない。この歳になると、他人の評価などどうでもいい。人から恐れられ、顰蹙を買い続ける音楽人生も、佳いものなのだと居直っている。